山手線新駅の名称を考える会

のちに「地名駅名向上委員会」(仮)となる予定です。

山手線新駅の名称に関する緊急提言 (署名を提出してきました)

2019年3月27日、能町みね子、今尾恵介、飯間浩明の3人で、渋谷区代々木のJR本社に「『高輪ゲートウェイ』という駅名を撤回してください」として集めた署名47930件を提出してきました。

また、その際、「山手線新駅の名称を考える会」として、「山手線新駅の名称に関する緊急提言」を発表いたしました。 

JR側からは、鉄道事業本部 営業部課長の方、総合企画本部 品川・大規模開発部 企画・予算グループの方、広報部 報道グループリーダーの方、ご意見承りセンターの方、4名の方が同席しました(個人名は一応秘匿します)。

30分程度お話をしたものの、鉄道事業本部 営業部課長の方からの「撤回することはない」という意見しかうかがえませんでした。ほかの方から発言は特にありませんでした。

その後、2か所で記者会見をし、上記の「緊急提言」を発表しました。

以下に、それをそのまま掲載します(ネット上では読みづらいので、太字・カラーなどを加えています)。


2019年3月27日
山手線新駅の名称を考える会

能町みね子(エッセイスト・イラストレーター)
飯間浩明(国語辞典編纂者)
今尾恵介(日本地図学会「地図と地名」専門部会主査)
小林政能(境界協会主宰)
杉内由佳(立正大学非常勤講師)


【提言骨子】
私たちは、山手線新駅の名称(新駅名)について、以下のことを提言します。
(1) 新駅名は、「地域の歴史を受け継ぐ」「街全体の発展に寄与する」(JR東日本の見解)という趣旨にいっそうふさわしいものにすること。
(2) 新駅名は、単に駅周辺のみならず、首都東京の新しい「地名ブランド」として、集客に貢献し、さまざまな場面で広く使うことが可能な、伝統的地名を選ぶこと。
(3) 新駅名は、多くの人々に支持される名称にすること。
(4) 以上の条件にかなう新駅名として、「高輪」を採用すること。

 

●提言に至る経緯

JR山手線の田町―品川間に新駅を建設する計画は2012年頃からしばしば報道され、2014年に正式に発表されました。新駅の名称についても取り沙汰されるようになり、新駅予定地の地元では新駅名を「高輪」にしようという署名活動が行われました。2014年6月には、その署名活動を受けて、港区議会で「高輪」を推す請願を採択するという動きもありました。

結局、新駅名は2018年6月から一般公募が始まり、同年12月4日、「高輪ゲートウェイ」に決定した旨の発表がありました。

この発表は驚きをもって迎えられました。ニュースサイトでは「『名前を変えた方がいい』が全体の95.8%」(Jタウンネット 2018年12月5日)というアンケート結果もあり、「批判の的になっている」(読売新聞電子版 2018年12月23日)という状況でした。

新駅名の公募結果によれば、応募数の上位は「高輪」(8,398件)「芝浦」(4,265件)「芝浜」(3,497件)であり、1位の「高輪」が2位以下を引き離して圧倒的な支持を集めました。一方、「高輪ゲートウェイ」は130位(36件)にとどまりました。応募数の少ない候補が新駅名に採用されたことについては「『何のための公募なのか』という疑問の声が出るのは当然」毎日新聞夕刊 2018年12月27日)との指摘もありました。

新駅名発表の直後の7日、当会メンバーの能町は「高輪ゲートウェイ」の名称の撤回を求めるネット署名を始めました。選定の経緯が不透明であること、名称が歴史を踏まえておらず、語感も悪いことなどを理由に挙げました。2019年1月5日までの約1か月間の署名活動で、47,930名の方から賛同の署名を得ることができました。

2019年2月、能町のほか、署名活動の趣旨に賛同した飯間・今尾・小林・杉内が集まり、当会(「山手線新駅の名称を考える会」)を発足しました。なお、私たち以外に署名活動の趣旨にご賛同いただいた方々のお名前は、本資料の末尾に記します。

当会では、約4万8千人に及ぶ署名の内容を踏まえ、新駅名は今後どうなることが望ましいか議論しました。一方で、新駅の予定地を訪れ、地元の住民の方々にも話を伺いました。私たちの考えは、最終的に提言の形にまとまりました。その骨子は冒頭に掲げたとおりです。

本日3月27日、「高輪ゲートウェイ」撤回を求める署名をJR東日本に提出しました。それとともに、当該の新駅名は今後どうあるべきか、記者会見を開いて、私たちの提言を広く伝えることとしました。

●提言(1) 歴史の継承、発展への寄与

新駅の予定地の地名は「港南」といいますが、江戸時代には、この一帯は海でした。一方、予定地の西側に広がる「高輪」は、江戸時代に大きく発展した、歴史と伝統のある街です。

高輪といえば、浅野内匠頭赤穂浪士の墓のある泉岳寺がシンボル的存在です。泉岳寺以外にも多くの由緒ある寺社が点在し、寺町の情緒を残しています。

高輪皇族邸(旧高松宮邸)を擁する閑静な土地でもあります。ホテルや高級マンションが集まり、装飾的な美しい外観を持つ建物も少なくありません。

地形的には起伏が多く、伊皿子坂魚籃坂などの坂道があちこちにあります。散策をするためには格好の場所です。

高輪の街は歴史・地理・文化的条件に恵まれ、神楽坂や谷根千谷中・根津・千駄木)のように体験型コンテンツに満ちています。本来ならば都内有数の人気の観光スポットになりうる街です。ところが、目下は「宿泊客は多いが観光客は少ない」という状態に甘んじています。

山手線に新駅を建設することは、伝統ある高輪の街を東京の新しい集客地として発展させる契機になります。JR東日本も新駅建設の趣旨について以下のように述べています。「この地域の歴史を受け継ぎ、今後も交流拠点としての機能を担う」「新しい駅が、過去と未来、日本と世界、そして多くの人々をつなぐ結節点として、街全体の発展に寄与する」(JR東日本ニュース 2018年12月4日)。この趣旨に、私たちは賛同します。

この「地域の歴史の継承」「街全体の発展への寄与」という趣旨をいっそう徹底するには、新駅名は、駅周辺の施設または区画しか意味しない「高輪ゲートウェイ」ではなく、街全体をカバーする駅名、すなわち「高輪」とすることを提言します。新しい都市を創造しようとするJR東日本には、あえて「何も足さない駅名」を選んでいただきたいと考えます。

●提言(2) 新しい「地名ブランド」の創出

地域の歴史を継承し、街全体の発展に寄与するためには、新駅名は「高輪ゲートウェイ」で十分ではないかという考え方があるかもしれません。しかしながら、古い伝統のある街に人々を呼び込むためには、その街の地名そのものをブランド化することが最も効果的です。

たとえば、金沢市では現在、高度成長期に消えた江戸時代以来の町名が少しずつ復活しており、その動きは高岡市長崎市豊後高田市などに波及しています。こうした伝統的地名の尊重の動きは、別の面から見れば、地名のブランド力を高める動きでもあります。

地名ブランドの最たるもののひとつが「京都」です。この地名は千数百年の歴史の重みを感じさせる力を持ちます。「そうだ 京都、行こう。」という広告コピーは、「京都」という地名ブランドの効果を最大限に利用し、成功した例です。

東京の街でも、「浅草」「銀座」などは有力な地名ブランドであり、その名前だけで人を引きつけます。お菓子の名でも、「浅草○○」となっていると、「ちょっと買ってみようか」という気持ちになります。これが地名ブランドの威力です。ブランド力のある地名は、施設名、団体名などにも広く使われ、その名前のついたもの全体に利益をもたらします。

高輪は、浅草などと同じく歴史と伝統のある街です。今のところ、全国的にはややマイナーな地名ですが、今後、街の整備が進むにつれて、ブランド力が高まっていくことが期待されます。

ところが、新駅名が「高輪ゲートウェイ」に決まってしまうと、「高輪」のブランド力が十分に育たないおそれがあります。駅名の「高輪ゲートウェイ」が有名になればなるほど、「『高輪』といえば『高輪ゲートウェイ』」というイメージが固定化し、「高輪」から古い寺社や高級住宅地などのイメージが感じられなくなっていきます。独特のイメージのなくなった地名は、ブランドとしては失敗です。

「高輪」は、長い歴史に支えられて、将来は高い集客力を得る可能性があります。その集客力は、単に駅周辺のみならず、地域全体、ひいては首都東京の集客力を高めるでしょう。その大きな可能性をみすみす潰すべきではありません。
「高輪」という東京の新しい地名ブランドを創出するため、駅名も地名と同じ「高輪」にすることを提言します。JR東日本が伝統的地名を新駅名に選ぶ決断をされるならば、大袈裟でなく、日本の鉄道史に新たな一歩を記す快挙となります。

●提言(3) 多くの人々に支持される駅名

何ごとによらず、ものの名前は、人に好まれ、愛されるものをつけることが望ましいのは言うまでもありません。誰しも、自分の好まないことばを無理やり使わされない権利があります。ところが、日常的に利用する公共交通機関の名称は、「好まないから使わない」というわけにはいきません。したがって、新駅名は、なるべく多くの人に支持されるものを選ぶことが必要です。

新駅名の一般公募では、前述のように「高輪」が「芝浦」以下を大差で引き離して1位となりました。「高輪」が多くの人に支持されていることが分かります。「高輪」を駅名に採用すれば、多くの利用客がこの駅名に愛着を持つことが大いに期待されます。

もちろん、応募数が多くても、ただちにそれを採用できない場合もあります。2017年に上野動物園で生まれたパンダの名前は、応募数の上位から、すでに使われている名前などを除外して選考し、結局、候補8点のうち最も応募数の多かった「シャンシャン」に決定しました。他のパンダと同名になってしまっては困るので、上位の候補を除外したのは妥当な措置でした。

「高輪」の場合は、同名の駅も存在せず、歴史的・地理的に不適切な駅名でもありません。「高輪」を避ける理由はなく、支持される名称をそのまま駅名に採用することが最も望ましい方法です。

●提言(4) 結論

以上述べてきた理由から、私たちの会では、JR山手線の新駅の名称として「高輪」を採用することを提言します。

新駅名「高輪ゲートウェイ」を撤回してほしいという署名活動の趣旨からすれば、撤回の実現までが目的であって、駅名の対案を出す必要はないともいえます。しかしながら、新駅の予定地に隣接する街の中で、「高輪」は泉岳寺に代表される独特の歴史と伝統を有し、街の整備によってさらに発展する余地があります。また、「高輪」は新しい地名ブランドとして首都東京の魅力の向上に貢献する可能性もあります。さらに、駅名案の応募数から、一般の支持が非常に高いことも明らかです。

これらの点を勘案すれば、新駅名に「高輪」を採用することが最も適切だと考えます。私たちの主張に対し、皆さまのご賛同をいただき、山手線新駅の名称が「高輪」になることを、私たちは心から願っています。

●署名をいただいた方々以外に、署名活動の趣旨にご賛同いただいた方々(五十音順)

鵜飼雅彦氏(港区議会議員)
カンニング竹山氏(お笑い芸人)
ギュウゾウ氏(パフォーマー・「電撃ネットワーク」メンバー)
楠原佑介氏(地名研究家・『この駅名に問題あり』著者)
小池康雄氏(小池企画印刷〔港区・メリーロード高輪〕)
笹原宏之氏(早稲田大学教授)
清水ミチコ氏(タレント)
デヴィ・スカルノ氏(タレント)
森田 喬氏(法政大学名誉教授・日本地図学会会長)

〔以 上〕


 また後日、もう少しざっくばらんな形で能町の私見も書こうかと思います。